アナール学園

不実なる街の住人「アナール学派」のブログです。

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アナール学派の野望

世の中には、なんとも厄介な話が三つある。
一つは「彼女の自慢話」、もう一つは「昨日の夢の話」、最後は「男の野望話」である。
この三つの話、話している方は楽しいのだが、聞いている方は、まったく面白くもなんとも無い。究極的に個人的な話なので、聞いている方は鼻の頭でもかきながら「へーへー」「そうなんだー」とでも言っておくしかないという、厄介モノなのだ。
一つ忠告させていただくと、こんな話をする友人は側に置いておかない方がいいだろう。そんなやつは、きっとロクな人間ではない。

ということで、今回はそのうちの一つ「男の野望話」を聞いてもらうことにする。皆さん、丹田に力を入れて、覚悟を決めて臨んでほしい。
さて、野望というものは数多くあれど、基本的には快楽原則に従った欲求の話だ。根本的には衣食住、飲む打つ買うといった類の話になる。欲望の土台というやつだ。
で、今回はその中の「住」についての野望を語りたいと思う。
どんな所に住みたいか?夜景の見える超豪華なマンション、犬の飼える広い庭がある一戸建て、情緒あふれる古風な町家、色々あるだろうが、私は普通のマンションがいい。それも、かなり古びたマンションで、相当粗悪な工事がなされたのであろう、壁にひびが入って、そこに酸性雨が流れ込んで変色し、それが「バカ」「SEX」などという字に見えるくらいに老朽化したのがいい。内装も、少しおしゃれにしようとして、妙な洋風建築を取り入れたことが裏目に出てしまっているのがいい。目が回るだけの螺旋階段があれば言うことはない。
建っている場所も、車どおりの多い国道に面し、おまけに小汚い河が真ん前に流れているのがいい。排気ガスのせいでロクに洗濯物も干せず、おまけに河原を勝手に農地として使う不届きな輩が撒く肥料の匂いがプーンと漂ってくるのがいいのだ。ベランダには鳩が糞を撒き散らし、時々、河原でゴルフの練習をするお父さんのミスショットが窓ガラスに激突するのなら、なおいい。
で、そのマンション、1階は住居ではなく、店舗として使われているのがいい。小ぶりなマンションなので店舗は二つが限界だ。そのうちの一つはクリーニング屋がいい。このクリーニング屋、家族四人で経営していて、家族構成は、父、母、息子二人である。実は一時、クリーニング屋をつぶして他の店にしようという話が出たことがある。二人の息子のうち、兄はコンビニ、弟はレンタルビデオ屋にしようと言い張った。しかし、紆余曲折があって、結局クリーニング屋になったのだ(病気がちの母親がクリーニング屋の存続を懇願したという話もある)。私はこんなクリーニング屋がいい。胸がときめく。誰がなんと言おうとこんなクリーニング屋がいい。
もう一つはプールバーがいい(プールバーってのはビリヤードのできるバーのことです。おそらく死語)。チューダイン様式を持ち崩したような内装で、風営法に引っかかりそうなほど薄暗く、店中がタバコの煙で燻され切ったような色で染まっているのがいい。マスターはダメ人間の見本のような人で、笑うと四本だけしかない前歯がニョキッと現れる。このマスター、昔はミュージシャンでレコードを出したこともあると言うが、酔って興が乗ったときにギターを抱えて歌うのは下手糞な「天国への階段」ばかりだ。店内に貼ってあるマリリンモンローのサインには下書きがあり、ビートルズのメンバーも三人までしか言えない。カクテルを頼んでも妙に甘いだけの奇怪な酒しか出ず、ボトルをキープしてもマスターが飲んでしまうので、酒は持込みが基本だ。もちろん、ビリヤード台はボロボロで、イレギュラー連発。キューは曲がり、ナインボールはとっくになくなっているので、白玉にマジックで9!
…あー、いい!こりゃあ、私、毎日行きますよ!ちなみに、マスターが地元のヤクザと妙に仲がよく、「色々なブツ」をどうこうしている、というのは内緒だ。
で、問題は隣と向かいに住んでいる人ですな。世の中には音楽を鳴らしながら軽快に布団を叩く人や、異常に子供に厳しい人がいるが、そんなのはゴメンだ。もっと、心温まるお付き合いがしたいと私は考えている。
まず、お隣さん。老夫婦。この夫婦、実はとんでもない金持ちで、旅行にばかり行っている。その度に、奇妙なお土産ばっかり買ってくるので、実に困るのだ。インドに行ってきた時は、巨大な男根の石像をもらったし、ドイツに行ったときは「ベートーベン饅頭」と大理石でできたベルリンの壁を買ってきた。一度、ありえないほどボーボーに毛が生えた民族楽器を買ってきたが、これはどこに行ってきたのだろうか?
この老夫婦、日頃はいい人なのだが、飼い犬のキューティーちゃん(チワワ、♂、八歳、趣味は死んだフリ)のことを「ペット」と呼ぶとマジ切れするのがタマに傷だ。あと、俺のことを「アナールちゃん」と、ちゃん付けで呼んだり、公明党に票を入れるように説得するのは勘弁して欲しい。
で、もう一組のお隣さんだ。これは三十歳初頭の独身男性。大学で論理学を専攻し、極めて重要でエポックメイキングな論文を発表するも、その内容のあまりの奇抜さと、本人の学会での人脈の無さと社交性のなさが災いし、大学を追われてゲーセンでバイトをするという不世出の不幸な男だ。年齢=彼女いない暦であり、会話では倒置法を多用し、口癖は「その話は矛盾しています。大いに」。私は、月にニ、三回彼と将棋を指すのだが(勿論全てボロ負けだ)、そこでよく言われるのは「アナールさん、そんなことはどうでもいいから、して下さい。投了。早く」。ちなみに、彼の部屋のベッドの下から、熟女系のエッチな本が出てきたことがあるが、これはトップシークレットだ。
で、お向かいさんだが、これは若い女性だ。国籍は不明だが、顔立ちと地黒の肌から東南アジア出身と推測される。どうやって生活しているかは不明だが、夕方になったら派手な格好をして出かけて行ったり、日々違う男が出入りしていたりすることから察するに、結構たくましく生きているんではないかと思う。
よく、バスローブ姿の彼女が「アナールサン、ソースカシテクダサイ」と言ってやってくるが、彼女が持っていくのはいつもマヨネーズであり、三回に一回は二度と帰ってくることはない(一度、セーラー服姿で来たことがあったが、あれは何をしていたんだろうか)。
ああ…ここまで書いて、私は泣きそうだ!なんという幸せだろうか。こんなところで住めれば、私は他の野望を全て捨て去ってもいい!この、アンニュイとメランコリーとノスタルジーに満ちた住居!胸が張り裂けそうだ!
おお、忘れていた!実は、一年に一回、八月の中ごろになると隣の老夫婦がホームパーティーを開くのだ。
夏の遅い夜がやっと訪れ、星が見え始めると、私は老夫婦の部屋のベランダに座りながら、向かいの女性が持ってきた冷凍食品の焼き鳥をツマミにビールを飲む。
蚊取り線香が、ゆっくりと煙を立て、私はその香りを胸いっぱいに吸い込みながら、悠然と腕の上で血を吸う蚊を叩く。隣では、キューティーちゃんが、ここぞとばかりに死んだフリをご披露している。
部屋の中からは、老夫婦の笑い声と、向かいの女性が論理学者をからかう黄色い声が聞こえてくる。もしかしたら、論理学者も今年こそは小さな夏の思い出を作れるかもしれない。
河原で、どこかの家族が花火をしているのが見える。
打ち上げ花火。なかなか火がつかないようだ。
まあ、そんなものだろう。
突然、湧き上がる光の柱。子供たちの歓声。思わず拍手してしまい、照れ隠しに小さく微笑む。
水面に写る花火が美しく、思わず見とれてしまう。そして、タバコを吸おうとしてフィルターに火をつけてしまった。
まあ、そんなものだろう。うん…そんなもんだ。これでいい…。
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  1. 2005/05/29(日) 01:29:42|
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