アナール学園

不実なる街の住人「アナール学派」のブログです。

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GOODS STORY

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 ある日、人類は、きれいさっぱり絶滅した。
 どんな出来事が起こったかはわからないが、地球自体は無傷のまま、人間だけが一瞬にして消えうせたのである。
 こんな趣味の悪い手品が行われた理由は一切不明だ。誰にもわかるはずもないし、第一、わかろうとする人間はもう一人もいないのだ。
 これは、そんなことが起こった直後の、ある部屋でのお話…。

「あああ!!!どうすりゃいいんだ、どうすりゃいいんだ!人間がいなくなってしまったじゃないか!なんてこったい!ベイビー!」
 悲嘆にくれている割には、妙に大きな声でCDがそういった。
「これは絶望だよ、絶望!もう誰も俺を聴いてはくれないんだ。プレーヤーに入れてももらえない。悲しみの涙が河になって絶望の海に流れていくよ~!Oh!」
 ひたすらにわめきたてるCDを、ジロリとにらみつける物があった。ペンだった。
「うるさいなぁ。なんてうるさい奴なんだ。やっぱり僕の思っていた通りだよ。うるさいのはスピーカーじゃなくてCDなんだ。傷でもつけて黙らせてやりたいよ…」
 ペンはそういって、ため息をついた。CDはペンをにらみ返す。
「What are you saying?何言ってんだよぉ!お前だって人間がいなけりゃ、もう用無しじゃないか!もう、だれもお前で字を書いたり絵を描いたりしてくれないんだぜ?背中を掻くのにも使ってもらえないんだから、お笑いものさ!HAHAHA!お前も、もっと泣きなさい。私の胸で~お泣きなさい~」
 CDがそういうと、ペンは堪えかねて怒鳴った。
「ああうるさい、うるさい!そうだな、お前も髭剃りの時に、鏡代わりにしてもらえないもんなぁ!」
「なんだとぉ!三本セットで百円の分際でぇ!Check it!」
「お前こそ!中古のくせして!」
 罵り合いが続く中、突然声が挙がった。
「二物(ふたり)ともやめて、こんなときにケンカなんてしてる場合じゃないでしょ!?」
 それはライターだった。
「お願いだからやめて…。今はちゃんと話し合いましょう。これから私たちどうすればいいのか…。ウッ…ウッ…」
 CDとペンは、泣きながら懇願するライターを見て、バツが悪そうに黙り込んだ。
「ああ、ハニー泣くのはおやめ…。キミに涙は似合わない…」
 低い声でそういったのはタバコだった。CDとペンはタバコが割って入ってきたのを見て、露骨に嫌な顔をした。
「さぁ、涙を拭くんだ、ハニー。火がつかなくなっちまうぜ?」
「うう…タバコさん、ありがとう。でも、私…もう火がつけられないの…。あなたにも…」
 ライターはそういうと、さらに大粒の涙を流し始めた。
「おや?そうかな?俺にはもう火がついちまった…。キミの真珠の涙が、俺のハートに火をつけちまったのさ。このまま燃え尽きちまいそうだよ…」
 タバコがそういうと、ライターはうれしそうに微笑んだ。
「まあ、ありがとう…。あなたって、いい物(ひと)なのね…」
「そうさ…。まぁ体には悪いけどね…。でも、キミには肺がないから大丈夫さ…」
 ライターとタバコは、辺りに甘い雰囲気を漂わせながら微笑み合った。
 CDとペンは、あきれかえって互いの顔を見る。
「なんて煙たいヤツなんだ…。こんな時にでも女を口説いてる…。どんな神経してるんだ?」
「Shit!あんなヤツ、さっさと灰になっちまえばいいんだ…」
 イチャイチャし始めたライターとタバコに背を向け、二人は同時に深いため息をついた。
「CD…お前はいいよな…」
 ペンがそういう。
「Oh!なぜだい?」
「だって、お前はプラスチックでデジタル録音。これからも半永久的にCDでいられるじゃないか…」
「Umm…。まあ、そうだけどさ。お前だってプラスチックじゃないか。これからも、ずっとペンでいられるさ。俺たち、いつまでも一緒さ!ドンマイ、マイフレンド!サンキュー、ペンフレンド!」
 CDがそういうと、ペンは大声で泣き始めた。
「違うんだよぉ!ぼ、僕にはインクがある!インクが乾けば僕はペンじゃなくなってしまう!それに、それに…僕を使ってた人間は、僕にフタをせずに消えてしまったんだよぉぉ!このままじゃ、僕は…ただの棒だ!うわぁぁぁん!!!」
「Oh…ジーザス…なんてこったい…」
 大泣きするペンを、CDはどうすることもできなかった。「フタは逆側にさしてあるのにね」とは、とてもじゃないが言えなかった。
 CDとペンの後ろでは、ライターとタバコが濃厚なイチャイチャを始めていた。
「ハァハァ…あなたってクールね…」
「ふうふう…ま、メンソールだからね…」
「ああ…ガスが漏れちゃうぅ!!!」
「いいかい、俺のニコチンいいかいいいかい…」
 そんなやり取りを聴いていると、情けないやら悲しいやらで、CDの目にもうっすらと涙が浮かんできた。
「フハハハハハハハハ!!!」
突然、高笑いが響く。皆、一斉に笑い声のする棚の上を見上げた。
「主人を失って嘆き悲しんでいる諸君!我輩が人間たちに代わって、君たちの主人となろうぞ!」
 尊大なセリフにしては、やけに高い声を発していたのは目覚まし時計だった。
「なんだ、お前は!びっくりするじゃないか!」
タバコが、妙にすっきりした顔で言う。
「それに何よ!?あなたが私たちの主人ですって?何を言い出すの!?」
 ライターが、満足そうな火照った顔でそう言った。
「フフフ…。人間亡き後、混乱するこの部屋(世界)。誰かが主人となって秩序を取り戻さねばならん。それに最もふさわしいのは、この我輩だというのだよ」
 目覚まし時計は、自信に満ちた顔で皆を見下ろしていた。
「お前が主人にふさわしいだって!?Why?Why?Why?何を根拠にそんなことを、あ、いうのさぁ~!?」
 そうCDが叫ぶ。
「フフフ…知りたいか?ならば教えてやろう。我輩はこの部屋の中で、最も偉大だからだよ。どれほど偉大だったかは諸君もご存知だろう。この部屋の主人であった人間も、常に我輩に従っていたのだ。常に我輩の気配に怯え、我輩の顔色をうかがっていた。朝に鳴り響く我輩の声、それこそが人間の一日の始まりだったのだ。ずばり言おう!我輩は、ずっと前から、この部屋で最も偉大な存在だったのだよ!」
 目覚まし時計が、そう豪語するのを聞いて、皆絶句した。確かにそうだったのだ。この部屋の主人は、目覚まし時計を一番恐れていた。それは、皆よく知っていたのだ。
「う…。そうね…確かにそうかもしれないわ…」
 ライターはそういって、色っぽい視線を目覚まし時計に送り始めた。タバコはあぜんとして、「えーーー!」という顔でライターを見た。
「フハハハのハ。諸君の物分りのよさには、我輩も満足だ。それではよいな?我輩が今からこの世界(部屋)の主人だぞよ」
 しばしの沈黙。しかし、皆心のどこかでホッとしていた。主人さえいれば日常を取り戻せるのだ。道具としての役割を取り戻すことが出来るのだ。
 しかし、その時…
「馬鹿らしくて聞いてられないな…。新たな主人だと?笑わせてくれるよ…」
 そうつぶやく声が聞こえた。
「だ、だれだ!?」
 目覚まし時計が叫ぶ。
「黙って朽ちていこうと思ったがね、思わず笑ってしまったよ。やれやれ…」
 それは本だった。
「本!貴様ぁ!我輩を、新たなる主人を愚弄する気か!?」
 本はわめきたてる目覚まし時計に一瞥をくれると、目を閉じてゆっくりと語り始めた。
「いいか?CD、ペン、ライター、タバコ、目覚まし時計、そして本。これは何だ…?そう、すべて人間が我々に与えた役割の名前だ…。わかるか?これらは人間が、我々が人間の役に立つようにという視点から見て付けた役割の名前なのだ。人間の有用性のものさしで測られて付けられたものなのだ…。そして今、人間はいない。これがどういうことだかわかるか?俺は本だ。しかし、読む人間がいなくなった今、俺はもはや本ではない。ただの紙とインクの集まりだ。いや、それですらない。紙もインクも、人間の役に立つようにという視点から見てつけられた名前だからな…。では、俺は何だ?ただの『物』だ。意味という鎖から解き放たれた、裸の『物』なのだ」
 本は、とうとうと語り続ける。
「皆そうなのだ。もはや我々はCDでもペンでもライターでもタバコでも目覚まし時計でもない。ただの『物』なのだ。インクが乾くことを心配する必要もない。誰に何を求められることもないし、強制されることもない。我々はあるようにあればそれでいいのだ…。自由なのだ…」
 そこまでいうと、本は目を開けて、目覚まし時計をじっと見つめた。その視線に、目覚まし時計はたじろいだ。
「ましてや、こんな状態で優劣があるわけはない。なにしろ、皆ただの『物』なのだからな…」
「そ、そうさ!みんな平等だよ!同じなんだ!インクが乾いてもいいんだ!」
 ペンが嬉しそうに叫んだ。
「そうね、そうなのよ!新しい主人ですって?バカみたい!」
 ライターはそういってタバコに寄り添った。タバコは再び「えーーー!」という顔をした。
「いえーっ!!!ブラザー!ラブ&ピース!俺たちゃ、ここからスタートアゲイン~」
 CDはペンに抱きついた。
「クッ…」
 目覚まし時計は、忌々しげにそう言った。
本は…もう何も語らなかった…。

 さて、ここで終わればハッピーエンド。しかし、悪趣味な手品はもう一つ残されていた。
 なんと、人間がよみがえったのだ。男と女それぞれ一人ずつ。
 そして、そのうちの男は、この騒々しい部屋の主人だったのだ。
 新しいアダムとイブは、さっそくこの部屋を訪れた。
 男はCDをプレーヤーに入れて音楽をかけ、ペンにふたをしてから女と愛し合った。そして、女が小さな寝息をたてて眠るの見届けると、ライターでタバコに火をつけて本を読みはじめた。
 ふと、目覚まし時計に目がとまる。
 男は二、三度うなずくと目覚まし時計をつかんで、外に放り投げた。
「俺は自由さ…」
 男はそうつぶやいた。放り出された目覚まし時計は、粉々に壊れ、もう二度と鳴ることはなかった。
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  1. 2005/07/08(金) 03:52:41|
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  4. コメント:2
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コメント

現実の部屋の主人煮告ぐ!
今すぐ目覚まし時計を窓から投げなさい!
やっぱもったいないから、押し入れ仕舞いなさい。
  1. 2005/07/11(月) 23:58:50 |
  2. URL |
  3. (-  _ -) #-
  4. [ 編集]

どもども!

もう、ほんとに投げてやりたいです。
でも、無理なんだよなぁ…。

これからの人生のうちで、時計を必要としない生活がおくれる機会があるのだろうか、などと考えてしまいます。
多分ないだろうし、もし必要でなくなっても、常に時間を気にした生活をおくっちゃうんだろうなぁ…。

人類は時計という機械に支配されてますわ…。
ガクガクブルブル
  1. 2005/07/12(火) 20:36:17 |
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  3. アナール学派 #-
  4. [ 編集]

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